dancyo

以前バイトをしていた宣伝会議のとなりに、「みよ田」というそば屋があった。

表参道の駅から歩いて3分。青山通りに面した超一等地に会社はあり、みよ田も同様だった。

確か2014年ごろオープンしたみよ田(開店というよりも、オープンと言ったほうが店の風合いに合っている。)は天ざるが700円程度で食べれるような、随分と安い店だったが、これがなんとなかなか旨いのである。

値段的にはどちらかというと箱根そば富士そばなどの、ファーストフードとしての立ち位置を変えない系の立ち食いそば屋に近い。

ちなみに昨日、虎ノ門の「砂場」に行き1600円のかき揚げ天ざるを食べた。

当然だけど、ものすごくおいしい。

700円の天せいろを出す、みよ田もけっこう旨い。

高いから良くないとか安いから素晴らしいとか、そういうことではない。

みよ田が砂場と同程度のクオリティかと言えば全然そんな事は無いし、かといって毎日砂場に行くわけには行かない。

それぞれに役割があり、そばという媒体を通してこれでもかと言うほど僕を満足させている。ああ、なんとステキな国なのか。そばのうまい国でよかった。

 

そんな素晴らしきみよ田であるが、真に素晴らしいのは蕎麦ではない。

そば屋の定番。みんな大好きカツ丼である。

正式名称は「極みカツ丼」である。

これがなんとまあ、極めに極めておりまして、これまで出会ったカツ丼のなかでぶっちぎりダントツの1位でありますです。

そもそもカツ丼なんて学食くらいでしか食べなかったから、審査が甘くなってしまうのは致し方ないにしても旨いのである。

思い出すだけで少し、がんばれるようなレベルのカツ丼だ。

僕はどちらかと言うとソースカツ丼派(ソーカツ派)何だけど、みよ田に入る時は断腸にの痛みに耐えながら、涙とともに馬謖を斬りつけるような気持ちで挑んでいる。

しかし、「断腸」って痛いのだろうか。断腸ってなんだ。腸を断るのか。

「いやー、腸のお客さんってのは、ちょっと。うちも長いんだけど、こういうのは初めてなもんで、、、」とかなんとか、どこの店にいっても断られ、ペットショップに入れば全ての犬が吠えまくり、病院に行けば内視鏡が迫り来るような生活か。

これは辛い。

痛いというかしんどい。

なるほど断腸の思いってのは、かなりの覚悟が必要だ。

いや、断腸ってのはこちらが断るのか?

内視鏡にさらされ犬には吠えられ、すっかり疲弊しきった腸。

やっとの思い出辿り着いたのは、山奥にたたずむ小さな民家。

山の冬は特別に冷える。遠くからは大きな木がきしむ音や、遠吠えが聞こえる。

最後の力を振り絞り、民家の扉を叩き、「少しだけ、、、1時間だけでいいから眠らせてくれないか。」と鈍い蠕動運動によって話す。

しかし、民家のはすでに満員状態だった。やつれた夫婦に加え、ちいさなこどもが5人、寝たきりの老婆が1人。腸をかくまってやる余裕なんて、少しも残っていなかった。

初めて見た腸の姿に、泣き叫ぶこども達。

ぼくは、一家の主として、言い渡さなければならなかった。

ああ、「断腸の思い」だ。

 

そんな、果てしない思いを胸に店に入る僕を迎えるのは、和食の料理人然とした白衣をまとう職人達である。しかしよく見ると、かれらは”ネクタイ”をしている。

白衣の下に、シャツを纏いネクタイをしめ、革靴を履くのである。

サラリーマンなのか。

どうしてそば屋で働く人間が、ネクタイを締めなければならない。

みんなネクタイがそんなに好きか。好こ、か。

それとも気づいていなかっただけで、和食系の料理屋の厨房で働く人たちはみんなネクタイをしているのか?いや、さすがにそれはないだろう。

だとすれば、なぜみよ田の料理人はネクタイをするのか。

ひとつ考えられるとすれば、あたりは基本的にオフィスビルばかりであり、昼休みにはネクタイをしめたサラリーマンの対応をしなければならないからか。

「俺たちがネクタイ締めて必死扱いて働いてるっていうのに、どうしてそば屋ごときがラフな格好で働いているんだ!!」と怒る客でもいたのか。

しかし「さすがにそれはないけどよぉ〜」って100%の確信を持っていうことができるだろうか。ああ、悲しや。

ともあれ、そんなネクタイ着用蕎麦職人(といっても蕎麦自体は取り寄せている感じ)が提供するカツ丼が最高なのだ。

カツ丼フリーク諸氏にはぜひ足を運んで頂きたい。

 

できれば、ネクタイをしめて。